ドックベストセメントは、殺菌作用のある銅イオンと、鉄イオンが配合され、さらに複数のミネラルが含まれている歯科用のセメントで、このセメントを虫歯部分に塗る事で、従来の虫歯治療のように、虫歯部分を削ることなく、殺菌して虫歯を治す事が可能です。
むし歯の部分に、ドックベストセメントを塗ると、虫歯を削ることなく、金属イオンの殺菌力により、むし歯菌が死滅します。
さらに、ドックベストセメントには、ミネラルの作用により、歯の再石灰化が徐々に促されるという特徴もあります。
また、歯に塗られたドックベストセメントからは、金属イオンによる殺菌効果が持続して働き続けるため、一度、ドックベストセメントの治療をすると殺菌力が永続的に続くことも大きなメリットです。
このため、ドックベストセメント治療を実施した歯は再度、むし歯になるリスクは低くなるのです。
C3と呼ばれる神経に近いむし歯は、神経近くまで進んでいるので、一般的な虫歯を削る治療では、神経を抜く治療になってしまいます。
しかし、神経が生きていれば、後述するプラズマレーザーとドックベストセメントによる殺菌治療により、歯を削らないで、むし歯菌を死滅させることができるため、神経を抜かなくて治療できる場合が少なくありません。
神経を残せるかどうかは、歯の状態にもよりますが、実際には、しみる程度の痛みであれば、神経を抜かないで残せる可能性が高くなります。
① プラズマレーザーでむし歯になった歯、全体に麻酔をかけます(レーザーには麻酔の効果もあります)
② むし歯の部分を、虫歯菌と歯周病菌を殺菌する次亜塩素酸電解水の殺菌水で洗浄します。
③ むし歯の部分にプラズマレーザーを照射して、歯を削らずにむし歯を殺菌、除去します。
④ ドックベストセメントの殺菌成分を歯の内部に浸透しやすくするコーパライトという薬液とドックベストセメントの粉を混ぜ合わせた薬液を塗ります。
⑤ その後、再度、ドックベストセメントの粉末と液体をまぜあわせてやわらかくしたものをむし歯の部分に詰めます。
⑥ 治療後に痛いなどがなければ、詰め物やかぶせ物で修復して治療は終了です。
ドックベストセメントは、アメリカで開発されました。
ドックベストセメントの名称は、治療の原理を19世紀に発見したアメリカ、フィラデルフィアの歯科医師、Dr.John Henry Holiday(通称ドックホリデー)の名前が由来です。
ドックホリデーは治療した患者さんの中に、子どもの時にむし歯治療をした歯が102歳になっても新たなむし歯もないまま、再発せず、健康に保たれている女性がいることに着目しました。その治療に使われていたのが銅の含有されたセメントだったのです。
そこで、これを改良してレッドカッパーセメント(赤銅セメント)という、むし歯の予防と歯の神経組織の新陳代謝を復活させるセメントを開発しました。
ところがセメントを開発中、殺菌力を増加させるために銅の成分を増やしたところ、使用した歯の神経が腐ってしまうという事態が起きました。その結果、徐々にレッドカッパーセメントは使われなくなったのです。
その後、歯科の世界では「むし歯は削って治す」という潮流となり、この銅セメントの存在はほとんど忘れられていたのです。これが1990年代に入り、アメリカの歯科医師 Dr.Tim Fraserによって再注目されました。
そして研究が始まり、安全無害で殺菌力に優れた現在のドックベストセメントが完成したのです。
ちなみに歯科で使うセメントは詰め物などの修復物を入れる時に使われる接着剤なども含まれ、現在の歯科治療にはなくてはならないものとして、普及しています。
ただし、ドックベストセメント治療には、少し難点がありました。
むし歯の殺菌と再石灰化に時間がかかることです。具体的には1年程度かかるとされており、殺菌されて虫歯の部分が硬くなったことを確認した上で、仕上げの修復物(主に詰め物)を作っていました。
しかし、最近は殺菌効果の高いプラズマレーザーというレーザーをあらかじめ、むし歯に照射することで殺菌をまず、すませてしまいます。
プラズマレーザーによる殺菌は秒単位で完了するので、ドックベストセメントの治療効果にかかわらず、むし歯はその日のうちに治ってしまいます。
その上でドッグベストセメントを充填するのです。
わかりやすくいえば、レーザーでむし歯を治療し、その後、むし歯の再発防止としてドックベストセメントを使用するというイメージが正確なところです。
この方法ですと修復物によっては、その日のうちに治療は終わります。
詰め物でも2~3回の通院で終了します。
歯を削らない治療には、3MIX法と呼ばれる別の治療法もあります。
3MIX法は、薬剤で虫歯菌を殺菌する点で、ドックベストセメント治療と似ていますが、ドックベストセメント治療は、3Mix法と比べて優れている点がいくつかあります。