歯を削らない、神経を抜かない虫歯治療は、予防歯科先進国といわれている北欧を中心としたヨーロッパでは、もっとさまざまな方法を使った「歯を削らない治療」が当たり前のように普及していました。
そして、この歯を削らない治療を含む、できるだけ患者さんの健康な歯を損なわず、最小限の介入で行う治療は「MI治療」と呼ばれています。
MI治療のMIとは、「Minimal(最小限、最低限) Intervention(介入)」の略。Minimalは最小限、最低限、 Interventionは介入という意味で、歯科の分野においては、「歯を削らないなど、できるだけ体に負担をかけない処置」という意味です。
MIという考え方はスイスのジュネーヴに本部を持つ歯科医師会組織の連盟で、130以上の国、地域から190以上の組織が参加するFDI(国際歯科連盟)がウィーン大会(2008年)において、採択した「Policy Statement(声明)」が由来です。
その声明は、「う蝕(むし歯)管理において、できるだけ歯を削らないためには、どのようにしたらいいか」というものでした。
この声明では、「むし歯への最小の外科的介入」だけでなく、「口腔内細菌叢の改善(感染予防)」「患者教育」「エナメル質および象牙質の非う窩性病変の再石灰化」「不良修復物の修理」などが示されました。
専門的な用語が入り、わかりにくいですが、簡単に言うと、歯を削らず、歯を守るための予防的治療や口の中のケアについての指導が重要だということを言っているのです。
当たり前のことのようですが、この大会は各国から歯科医師の組織のトップが集結しておこなわれるだけに、影響力があり、この声明にのっとって、欧米におけるむし歯治療は大きな転換期を迎えたわけです。
ちなみに、医学の世界では、MI治療はもっと早く行われていました。
日本でも椎間板ヘルニアの内視鏡手術や緑内障の小切開手術など、さまざまな手術が広がってきています。
[MI治療のメリット]
〇歯の寿命が延びる
〇治療期間が短い
〇痛みが少ないので麻酔が必要ない
〇治療のストレスが少ない
〇歯科医院での治療が怖くなくなる
〇全身疾患で麻酔が困難な例でも治療ができる
〇神経を取り除く処置などが原因と考えられる全身疾患の予防になる
〇治療の種類によっては、削るよりも安価
[MI治療のデメリット]
〇効果に個人差がある(神経を残して痛みが出てしまうこともある)
〇すべてのケースに向くとは限らない(例:重度のむし歯でまったく削らない治療はできない、など)
〇受診時に痛みの訴えが強い場合には、向かない
〇治療後に自身で塗り薬やうがい薬を使うなど、メインテナンス(ケア)が必要な場合もある